お母さんが妊娠したら、職場でなんだか居づらくなった、嫌なことを言われるようになった——そんなことってありませんか?実は、これは「マタニティハラスメント」という、妊娠・出産・育児に関するいやがらせのこと。仕事をしながら出産を控えた女性たちが、職場の人間関係で傷ついたり、仕事を続けられなくなったりするケースは珍しくありません。この記事を読めば、マタニティハラスがなぜ起きるのか、どんなことが該当するのか、そしてどう対応すればいいのかがわかるようになります。
- 妊娠・出産・育児を理由とした 職場での不当な扱い のことをマタニティハラスメントという
- 退職勧告・昇進外し・差別的な言動など、 様々な形態がある し、法律で禁止されている
- 被害を受けたら 人事部や労働局に相談 して、専門家の力を借りることが重要
もうちょっと詳しく
マタニティハラスメントという言葉は、「マタニティ」(母親・妊娠・出産)と「ハラスメント」(いやがらせ)を合わせた造語です。日本では特に1990年代後半から問題として認識されはじめ、2017年に労働局が企業への指導を本格化させました。厚生労働省の調査によると、妊娠・出産・育児を理由にした不当な扱いや嫌がらせを受けたという相談は毎年数千件報告されています。特に企業の正社員女性の中でも、妊娠を報告した後に職場の雰囲気が変わってしまったり、経験したことのない仕事に配置換えされたり、給与査定で不利な扱いを受けたりすることが多いんです。
法律では妊娠・出産・育児を理由とした「性別を理由とした差別」とみなしているんだ。
⚠️ よくある勘違い
→ これは間違い。妊娠・出産・育児は法律で守られている権利であり、これを理由にした差別は違法です。
→ これが正解です。妊娠中でも、必要な医療受診や無理のない働き方をする権利があります。
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マタニティハラスメントとは何か
マタニティハラスメントというのは、妊娠や出産、育児に関連するいやがらせや差別のこと。妊娠中の女性、出産を控えた女性、育児休暇から復帰した女性が、職場で不当な扱いを受けることを指しています。
具体的には、次のようなことが該当します。妊娠を理由に昇進や昇給で不利な扱いをされたり、退職を強く勧められたり、「そんなのは甘え」といった見下すような言動をされたり、病院の診察で休むことを嫌がられたり、育児休暇から復帰した後に責任のない仕事に回されたり、給与が下げられたり。こうした 妊娠や出産、育児に関連した不利な扱い全般 がマタニティハラスに該当するんです。
想像してみてください。お母さんが会社で働いていて、妊娠しましたと報告したら、それまで頼りにしてくれていた上司の態度がガラッと変わってしまったとします。「大事な企画の担当から外す」と言われたり、「育休に入るまでは軽い仕事だけしてもらう」と勝手に決められたり。もしくは「子どもが生まれたら仕事と両立できるのか」と何度も聞かれたり、「本当に戻ってくるんですか?」と疑いの目で見られたり。こういうことってありますよね。これらすべてがマタニティハラスメントなんです。
大事なポイントは、マタニティハラスメントは 個人の悪意だけでなく、組織全体の意識や企業文化の問題 として捉える必要があるということです。「あの人がたまたま嫌な人」だからではなく、妊娠や育児をする女性に対する偏見や差別が職場に根ざしている場合が多いんです。だからこそ、解決には企業全体の意識改革が必要なんですね。
マタニティハラスメントが起きる背景
なぜマタニティハラスメントが起きるのでしょうか?複数の理由があります。まず一つは、昔ながらの「女性は出産したら仕事をやめるもの」という固定観念です。特に高い年代の上司などは、自分の人生経験から「女性は結婚や出産で退職するもの」という前提を持っていることがあります。だから妊娠を報告されると、「どうせやめるんだろう」「この人に仕事をかけるのは無駄」といった判断をしてしまうんです。
二つ目は、妊娠・育児への理解不足です。つわりの辛さ、妊娠中の体の変化、育児の大変さ。これらを自分で経験したことがない人、特に男性上司は、その大変さを本当には理解できていないことがあります。だから「ちょっと気分が悪いくらいで仕事を休むなんて」「育児なんて女性の仕事じゃないか」といった見当違いな判断をしてしまうんです。
三つ目は、経営的な考え方です。出産予定のある女性に重要な仕事を任せると、育児休暇で不在になるリスクがあります。そこで「安定した人材配置」を理由に、妊娠・育児期の女性を意図的に軽い仕事に回してしまうという、経営判断としてのハラスメントが生じることもあります。
職場での具体例
実際の事例を見てみましょう。営業職の女性Aさんは、妊娠を上司に報告した直後、それまで自分が担当していた重要な案件をすべて他の人に移されました。「妊娠してるから無理でしょ」と上司は言いましたが、Aさんはその時点では仕事を続けたいと考えていたんです。でもチャンスは奪われてしまった。これがマタニティハラスメントです。
別の例として、事務職のBさんは育児休暇から復帰した後、以前のポジションではなく、誰でもできるような単純作業の部署に異動させられました。給与も下げられました。「育児があるから以前と同じペースで働けないでしょ」という企業側の勝手な判断です。Bさんが「前と同じペースで働きたい」と希望していたにもかかわらず、です。
また、妊娠中の診察で会社を休むことについて、「そんなに何度も病院に行く必要があるのか」「ちゃんと仕事をしようとしているのか疑問」といった言葉をかけられた、というケースもあります。妊娠中の女性は定期健診が必須なんですが、そういう医学的知識がないと、「私用で何度も休む人」と見えてしまうんですね。
マタニティハラスメントを禁止する法律
日本では、マタニティハラスメントを禁止する法律がいくつかあります。最も重要なのが 「育児・介護休業法」 という法律です。この法律は、妊娠・出産・育児休暇を理由とした不当な扱いを禁止しています。
具体的には、次の行為が禁止されています。妊娠・出産・育児休暇を理由とした解雇(つまり首にすること)。妊娠・出産・育児休暇を理由とした部署の異動(不利な異動)。昇進や昇給での差別。有給休暇の不当な取り扱い。嫌がらせや不利な労働条件での契約。こうしたことをしてはいけないと法律で定められているんです。
加えて、日本の 憲法では「性別を理由とした差別」が禁止 されていますし、雇用機会均等法でも「妊娠・出産に関連した差別」が禁止 されています。つまり、マタニティハラスメントはいくつもの法律で「してはいけないこと」として定められているんです。
ただし、法律があるからといって、すべての企業がそれを守っているわけではありません。だから被害を受けた人が、企業に対して是正を求めたり、場合によっては法的手段に訴えたりする必要があるんです。法律はあくまで『守るべきルール』を示しているだけで、実際の被害者を保護するには、その人自身が声を上げることが大切なんですね。
法律の罰則
マタニティハラスメントに該当する行為をした企業には、どんな罰則があるのでしょうか。直接的な「犯罪」として罰せられることは少ないですが、労働局からの指導や、被害者からの民事訴訟(損害賠償請求)を受ける可能性があります。
実際に、マタニティハラスメントで企業が労働局から指導を受けたり、被害者に損害賠償を支払うよう命じられたりするケースもあります。また、企業の社会的評判が傷つくこともあります。こういうリスクがあるからこそ、最近は大企業を中心に、マタニティハラスメント対策に力を入れる企業が増えているんです。
マタニティハラスメントの具体的な形態
マタニティハラスメントにはいろいろな形態があります。ひとつは 身体・精神的なハラスメント です。これは、妊娠や育児についての嫌な言葉や見下すような態度のこと。「そんなのは甘え」「本当に仕事をする気があるのか」といった発言がこれに該当します。妊娠中のつわりや体の変化に対して「気の持ちようだ」と言ったり、育児の大変さを理解しなかったり。こういう言葉や態度が、妊娠・育児中の女性に心理的なダメージを与えるんです。
二つ目は 昇進・昇給での差別 です。妊娠したとたんに昇進候補から外されたり、「どうせ育休に入るから」という理由で給与の査定を不利にしたり。妊娠前は「将来の幹部候補」と言われていたのに、妊娠を報告した途端に「定職務で十分」と言われたり。こういう差別のことですね。
三つ目は 配置転換や仕事の量の不当な変化 です。意図的に、やりがいのない仕事に移させたり、責任が低い部署に配転したり。または逆に、妊娠中だからと過度に仕事の量を減らして、その人の存在感を薄くしたり。こういうことです。
四つ目は 契約条件の不利な変更 です。妊娠を理由に契約を打ち切るとまでは言わなくても、「育児休暇から復帰したら非正規雇用にしましょう」とか「時給を下げます」とか、不利な条件を押し付けられること。これもハラスメントです。
五つ目は 医療受診の制限 です。妊娠中は定期的な健診が必須ですが、「そんなに何度も休むなんて」と医師から指示された診察を受けさせないようなことです。または、育児のための保育園の迎え時間に間に合わせるための退勤を、企業が認めないようなケースもあります。
ハラスメントの加害者
マタニティハラスメントをするのは、必ずしも一人の「悪い人」ではなく、往々にして上司や経営層といった、会社の意思決定権を持つ人たちです。上司が無理解で、部下の妊娠を受け入れられない。経営層が「妊娠・育児は仕事の邪魔」と考えている。こういう立場の人からのハラスメントは、被害者にとって特に深刻です。だって逆らったら、評価が下げられたり、配置転換されたり、最悪の場合は解雇されるかもしれないからです。
同僚からのハラスメントもあります。「お母さんになるんですね、仕事はどうするんですか?」といった一見は善意に見える質問も、繰り返されるとプレッシャーになることがあります。または、「子どもがいると仕事ができないはず」という先入観から、不利な扱いを受けることもあります。
マタニティハラスメントの被害者になったときの対応
もし自分や家族が、マタニティハラスメントの被害を受けたら、どうすればいいのでしょうか?第一に大事なのは、 ひとりで抱え込まないこと です。
まず、記録を取りましょう。いつ、誰に、何を言われたのか。どんな不利な扱いを受けたのか。できれば日付や時間、その時の状況を詳しくメモに残しておくことです。後で証拠になる可能性があります。
次に、会社内に相談窓口があれば、人事部やハラスメント相談窓口に相談してください。多くの企業には、こういう相談窓口がありますから。ただし、相談先がハラスメントの当事者(例えば、いやがらせをしている上司の上司)だと、被害が広がる可能性もあります。その場合は、外部の相談窓口を頼りましょう。
外部の相談窓口としては、以下のようなものがあります。
都道府県の労働局雇用環境・均等部(きんきん):妊娠・出産・育児に関する相談や、不当な扱いについての相談を無料で受け付けています。
ハローワーク:職業紹介だけでなく、労働相談も受け付けています。
弁護士相談:本格的に法的手段を考える場合は、弁護士に相談することもできます。市民相談室などで無料相談を受け付けているところもあります。
妊娠・育児サポート団体:NPOなどの団体が、妊娠・育児中の女性の相談に応じています。
どの相談窓口を選ぶかは、被害の内容や本人の希望によります。「まだ企業内で解決したい」なら人事部に相談することから始めるのもいいですし、「企業に信頼がない」なら最初から外部窓口に相談するのも有効です。
相談から解決への流れ
相談窓口に相談すると、どうなるのでしょうか?通常の流れは次の通りです。
まず、相談内容の詳細を聞き取られます。いつ、どこで、誰に、何をされたのか。その結果、どんな被害を受けたのか。また、今までどんな対応をしてきたのか。
次に、相談機関が企業に対して指導や勧告を行う場合があります。「このような行為はハラスメントに該当する可能性があるので改善してください」という指導ですね。多くの場合、これで企業は改善を始めます。企業も「指導を受けている」という事実は、社会的信用の低下につながるので避けたいんです。
ただし、企業が改善しない場合や、被害がひどい場合は、調停や民事訴訟といった法的手段に進むこともあります。これはかなり大ごとになってしまいますが、そこまでいく前に大概は解決するケースが多いです。
相談するのに不安がある場合
「相談したら、企業から報復されるんじゃないか」と不安に思う人も多いでしょう。その気持ちはよくわかります。でも安心してください。日本の法律では、マタニティハラスメントについて相談や申告をしたことを理由とした報復は、禁止されています。つまり、「相談したから給与を下げる」「配置転換する」といった仕返しはできないんです。
もし報復を受けたら、その報復行為自体が新たなハラスメント(報復ハラスメント)になります。だから、相談することを恐れる必要はないんです。ただし、証拠が大事ですから、やはり「いつ何があったのか」をしっかり記録しておくことが重要ですね。
マタニティハラスメントを防ぐために企業ができること
ここまで、被害者がすべきことを説明してきました。でも大事なのは、最初からハラスメントが起きないようにすることです。そのために、企業が何をできるのかを見てみましょう。
第一は 研修と意識啓発 です。全社員に対して、「妊娠・出産・育児に関する知識」と「マタニティハラスメントの具体例」を教えること。上司には特に、部下が妊娠・育児する際の対応方法を学ばせることが大事です。
第二は 相談窓口の整備 です。妊娠・育児に関する悩みや相談ができる窓口をしっかり作ること。相談員が中立的で、秘密を守ってくれることが重要です。
第三は 人事制度の見直し です。昇進試験の条件に「育児に関わる人は不利」みたいな条項がないか確認する。給与体系が妊娠・育児で不利にならないようにする。契約社員から正社員への登用の際に「育児している人は除く」みたいなルールがないか確認する。こういう制度的な差別を防ぐことですね。
第四は 職場環境の改善 です。妊娠中の女性が働きやすいような環境づくり。つまり、つわりが辛いときに休みやすい雰囲気、医師から指示された通院に対応できる勤務体制、育児と仕事の両立が可能な働き方の提供。こういうことです。
これらのことを実施している企業は、実はまだ少ないのが現状です。だからこそ、マタニティハラスメントが減らないんですね。でも、「働き方改革」や「ダイバーシティ」といった社会的な流れの中で、最近は改善しようとする企業が増えています。
社会全体で考えるべきこと
マタニティハラスメント問題は、実は個々の企業の問題だけではなく、日本の社会全体の問題なんです。
背景にあるのは、「女性は出産したら家にいるべき」「仕事と育児は両立できない」といった固い固定観念です。特に年配の世代が持っていることが多いこの観念が、若い世代にも影響を与えています。親や親戚から「仕事と育児の両立は難しいんじゃないか」と言われたり、社会全体が「子育ては母親の責任」という圧力をかけたり。こういう無意識の差別が、マタニティハラスメントの温床になっているんです。
また、日本は 男性の育児休暇取得率が極めて低い ことが知られています。つまり、育児は女性がするもの、という前提が社会全体にあるんです。だから「女性が育児をしながら仕事をするなんて」という、ある意味で「女性に過度な期待」をかける形のハラスメントも生じやすいんですね。
解決には、企業レベルの対策だけでなく、社会全体の意識改革が必要です。男性も育児に参加する、育児は女性だけの責任ではないという認識。そして、妊娠・出産・育児は人生の自然なイベントであり、それを理由に人を差別したり、不利な扱いをしたりするのは、人権侵害だという認識。こういう社会的な価値観の変化が、マタニティハラスメントを本当に減らす道なんです。
学生の皆さんも、この問題について知ることが大事です。自分の親や親戚が妊娠・育児をしながら働いている場合、その人がどんな状況に置かれているのか。もし不当な扱いを受けていたら、「それはおかしい」と気付く感性を持つこと。そして、将来自分たちが大人になった時に、このような差別のない社会を作る側に回ること。それが、若い世代の大事な役割だと思います。
