事業をしていると、うまくいく年もあれば赤字になる年もありますよね。そんなとき「今年は赤字だから、税金もたくさん払わなくていいや」と思っていませんか?実はそこには「損失繰越」という、赤字を活かす重要な仕組みが隠れているんです。この記事を読めば、企業がどうやって赤字を翌年以降に持ち越して税金を減らしているのか、その全体像がスッキリ理解できますよ。
- 赤字になった年の損失を、翌年以降に持ち越して使える制度のこと
- 来年の利益から赤字を引くので、納める税金が安くなるという仕組み
- ただし持ち越せる期間にはルールがあるので、誰でも何年でも使えるわけではない
もうちょっと詳しく
損失繰越は、赤字を「貯金」のように来年に持ち越せる制度です。ただし、全ての企業が使えるわけではなく、法人税を払っている企業が対象になります。また、青色申告という特別な申告方法をしている場合、赤字を最大10年まで持ち越せます。一方、白色申告という通常の申告方法では、赤字を持ち越すことができません。つまり、どちらの申告方法を選ぶかが、赤字をどう扱うかに大きく影響するわけです。企業経営では、このような制度の違いを知っているかいないかで、納める税金が大きく変わってくるんですよ。
損失繰越は「青色申告」を選んだ企業の特権。赤字を何年も活用できる強みがある
⚠️ よくある勘違い
→ 赤字の企業は確定申告をする義務があります。赤字だからといって申告しないと脱税になってしまいます。正しく申告してこそ、損失繰越の恩恵を受けられるんです。
→ 赤字を損失繰越して、翌年以降の利益と相殺する。これが適切な税務処理です。そうすることで、企業全体としての税負担を減らせます。
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損失繰越ってそもそも何?
「損失繰越」という言葉を初めて聞く人も多いと思います。簡単に言うと、企業が赤字になった年の損失を、翌年以降に持ち越して、その年の利益から引ける制度のこと。つまり「今年の赤字を来年や再来年の利益と相殺できる」という仕組みなんです。
例えば、あなたがお小遣いでビジネスをしていると想像してください。1年目は失敗して100万円の損失が出ました。2年目は成功して300万円の利益が出ました。普通なら「300万円の利益を得た」となり、そこに対して税金がかかります。でも損失繰越を使うと「1年目の100万円の損失を引いて、実質200万円の利益」という扱いになるんです。そうすると、支払う税金も「300万円」に対する税金ではなく「200万円」に対する税金で済むわけです。これが損失繰越の基本的な考え方ですね。
企業経営では、毎年がうまくいくとは限りません。むしろ、新しい事業に挑戦する時期は、赤字になることもあります。そんなときに「赤字はムダになってしまう」と考えるのではなく「この赤字を有効活用しよう」と考えるのが、損失繰越という制度の意図なんです。一時的な赤字で企業全体が傾くのを防ぎ、長期的な経営を応援するための仕組みだと思えばいいですよ。
ただし、ここで重要なポイントがあります。全ての企業がこの制度を使えるわけではないということです。青色申告という特別な申告方法を選んでいる企業だけが、損失繰越を活用できます。白色申告という通常の方法を選んでいると、赤字を持ち越すことができないんです。つまり「どの申告方法を選ぶか」が、赤字をどう扱うかに大きな影響を与えるわけです。企業を始めるときは、このような選択肢があることを頭に入れておくといいですよ。
なぜそんな制度があるの?
「なぜ企業は赤字を持ち越せる制度なんて作ってもらえるの?」と思う人もいるかもしれませんね。これには、経済政策的な理由があるんです。
企業の経営というのは、常に成功するわけではありません。新商品を開発するのに失敗することもあるし、経済の変動で売上が減ることもあります。もし赤字になった企業が「それでも税金は満額払わなければならない」となったら、どうなると思いますか?企業はますます経営が厳しくなり、潰れやすくなってしまいます。つまり、赤字の企業から税金を無理に絞り取ると、その企業が立ち直りにくくなってしまうわけです。
だから政府は考えました。「赤字の企業にも、立ち直るチャンスを与えようじゃないか。その赤字を、後で利益が出たときに活かせるようにしよう」と。これが損失繰越制度が生まれた理由なんです。言い換えると、一時的な経営難に陥った企業を、税制で応援する仕組みなわけですね。
また、もう一つの狙いもあります。企業が新しいことに挑戦しやすくするという目的です。「新事業に失敗したら赤字になるけど、その赤字は後で活かせる」と思えば、企業も挑戦しやすくなります。挑戦する企業が増えれば、新しい商品やサービスが生まれて、社会全体が豊かになります。それが国の経済成長につながるわけです。つまり、損失繰越は「企業をサポートする」と同時に「社会全体の発展を支援する」という、双方向の効果がある制度なんですよ。
税金というと「国が国民や企業から取り上げるもの」というイメージを持つ人も多いと思います。でも実は、うまく使えば「企業を応援する武器」になるんです。損失繰越はその良い例。赤字になった企業も、この制度を正しく活用すれば、税務面で立ち直りのお手伝いができるわけですね。
赤字の企業はどうなる?
「赤字になった企業は、税金をどうするの?」という疑問も湧いてくるかもしれませんね。これを理解するには、まず「利益」と「赤字」という概念を整理する必要があります。
企業の税金は「利益」に対してかかります。つまり、売上から経費を引いて、残ったお金が「利益」で、その利益に対して税金がかかるわけです。逆に言うと、利益がなければ税金はかかりません。では、赤字の場合はどうでしょう?売上から経費を引いた結果、マイナスになった状態が赤字です。この場合、利益がないので、その年の税金はゼロになります。
ただし、ここが大事なポイント。「税金がゼロ」ということは「申告しなくてもいい」という意味ではありません。赤字だからこそ、きちんと申告する必要があります。なぜなら、赤字を申告することで、初めて損失繰越が認められるからです。つまり「赤字になった企業は、正しく申告して、その赤字を記録に残す」ということが重要なんですよ。
実例を想像してみましょう。Aさんという起業家が事業を始めたとします。1年目は開業準備で100万円の赤字が出ました。この時点では「利益がないから税金はゼロ」です。でも、Aさんが確定申告をしなかったら、この100万円の赤字は記録に残りません。2年目に500万円の利益が出たとき、帳面上では「500万円の利益」となり、そこに対して税金がかかってしまいます。
一方、Aさんが1年目に赤字を申告していたとしましょう。帳面に「1年目:赤字100万円」と記録されます。2年目に500万円の利益が出たとき、この損失繰越を活用すると「実質的な利益は400万円」という計算になるんです。そうすると、支払う税金も少なくなるわけです。つまり、赤字の年だからこそ「正しく申告する」ことが重要なんですね。
また、赤字の企業であっても、消費税などの他の税金が必要な場合があります。だから「赤字だから税務処理は関係ない」というわけではなく「赤字だからこそ、きちんと書類を整理して申告する」という意識が大切なんですよ。
損失繰越のルールと期間
さて、ここまで損失繰越がいかに便利な制度かをお話してきました。でも、このように便利な制度には、必ずルールがあります。誰でも何度でも無限に使えるわけではないんです。
青色申告が必須条件
まず第一に、損失繰越を使うには「青色申告」という申告方法を選ぶ必要があります。つまり、通常の「白色申告」では、赤字を繰り越すことができないんです。青色申告とは何か、簡単に説明しますね。企業や個人事業主が税務署に事前申請をして、帳簿をより詳しく記録する代わりに、税務面で優遇されるという申告方法のこと。つまり「信頼できるきちんとした帳簿を作るなら、税制面でお手伝いしますよ」というのが青色申告なんです。
青色申告を選ぶには、新しく事業を始める場合は「開業日から2ヶ月以内」に税務署に届け出を出す必要があります。既に白色申告をしている人が変更したい場合も、事前に申請しなければなりません。つまり「赤字が出ちゃったから、急に損失繰越を使おう」ということはできないんです。事前に「青色申告を選ぼう」と決める必要があるわけですね。
持ち越せる期間は最大10年
青色申告を選んでいれば、赤字をいつまででも持ち越せるわけではありません。持ち越せる期間は「最大10年」と決まっています。つまり、1年目に100万円の赤字が出た場合、その赤字を使える期間は「2年目から11年目」までの10年間ということです。11年目を過ぎてしまったら、その赤字は失効してしまい、もう使えなくなります。
ちなみに、以前はこの期間がもっと短かったんです。つまり、税制が変わるたびに「企業をどこまでサポートするか」という判断が変わってくるわけですね。10年という期間は「一般的な企業の経営サイクル」を考えて決められたものだと考えられます。
赤字の全額を持ち越せるわけではない場合もある
また、少し複雑な話ですが、赤字の全額を持ち越せない場合もあります。例えば、特定の業種に対する制限や、資本金の規模によって制限されることもあるんです。ただ、基本的には「赤字の全額を10年間持ち越せる」と考えておけば、大体の場合は大丈夫です。
実例で理解する損失繰越
ここまでの説明で、損失繰越の基本的な考え方は理解できたと思います。でも「実際にはどうなるのか」を具体的に見ないと、まだぼんやりしているかもしれませんね。ここでは、リアルな例を使って、損失繰越がどう機能するのか、詳しく見ていきましょう。
ケース1:新事業失敗から回復した企業
Bさんという人が、新しく会社を立ち上げたとします。最初の3年間は新事業に投資していて、利益が出ていません。むしろ、毎年赤字が出ています。
1年目:赤字200万円
2年目:赤字150万円
3年目:赤字100万円
合計で450万円の赤字です。これらの赤字を全て申告して記録に残しておきます(青色申告している場合)。
そして4年目。新事業がようやく軌道に乗って、1000万円の利益が出ました。普通に考えると、1000万円の利益に対して税金がかかります。でも、損失繰越を使うと、こうなります。
4年目の利益:1000万円
過去の赤字:450万円
実質的な利益:1000万円 – 450万円 = 550万円
つまり、税金は「1000万円」に対してではなく「550万円」に対してかかるわけです。これだけで、かなりの税負担が減りますね。このように、損失繰越は「企業が立ち直るまでの間に溜まった赤字」を、後で活かす仕組みなんです。
ケース2:赤字を使い切れなかった場合
次に、赤字を全て使い切れなかったパターンを見てみましょう。Cさんという人が、500万円の赤字を持っていたとします。その後、毎年こんな利益が出ました。
1年目:赤字500万円(記録に残す)
2年目:利益100万円
3年目:利益150万円
4年目:利益120万円
2年目に100万円の利益が出ましたが、500万円の赤字が残っています。この場合、赤字から100万円を使い、残りの400万円が繰り越されます。
2年目の実質利益:100万円 – 100万円(赤字から使った分)= 0円
つまり、2年目の税金はゼロです。残りの赤字400万円は、3年目に繰り越されます。
3年目は150万円の利益が出ました。150万円から、残っている赤字400万円を引きたいところですが、150万円しかないので、150万円全部が相殺されます。
3年目の実質利益:150万円 – 150万円 = 0円
3年目も税金はゼロです。残りの赤字は250万円になりました。
4年目は120万円の利益です。同じように、120万円が赤字と相殺されます。
4年目の実質利益:120万円 – 120万円 = 0円
残りの赤字は130万円です。これは5年目以降に繰り越されます。このように「赤字が大きい場合は、複数年かけて使い切る」という流れになるわけです。
ケース3:赤字が期限切れになる場合
最後に、赤字が使い切れないまま期限を迎える場合を見てみましょう。Dさんが2016年に500万円の赤字を出しました。その後、利益がこんなふうに推移したとします。
2016年:赤字500万円
2017年:利益100万円
2018年:利益80万円
2019年:赤字50万円(赤字なので相殺なし)
2020年:利益70万円
2021年:利益60万円
2022年:利益90万円
2023年:利益85万円
2024年:利益75万円
2025年:利益60万円
2026年:赤字か利益ゼロ
2016年の赤字500万円は、2017年から2026年までの10年間使えます。2026年を過ぎると、使い切れていない赤字は失効してしまいます。上の例では、2017年から2025年の間に、500万円 + 50万円(新たな赤字)の合計550万円が相殺されていますね。もし、この期間に全て使い切れていなかったら、残りの赤字は2027年以降は使えなくなってしまうわけです。
このように、損失繰越は「非常に便利だけど、期限がある」という仕組みなんです。企業としては「この赤字を、何年以内に活かしきるか」という戦略が必要になってくるわけですね。
